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有本健司

導入

       1991年三重県名張市に生まれた。正確には大阪の病院で生まれたので14歳ぐらいまでは大阪生まれと言い張り、名張出身を受け入れるのに時間がかかった。バブル経済時に山を削って作られたニュータウンに実家はある、どこへ行くにも山を降りなければならない、途中には巨大なポプラのが植えられツツジが四角く切り取られていた。小さな頃、家にいるのが好きだった。テレビばかり見ては、たまに玄関先でバットを振った。年代別のアニメや歌、スポーツ名シーンのランキング番組が多い時代だった。ドキュメンタリー番組、ワイドショーもよく見た。

湾岸戦争の映像がブラウン管に映っていたのを覚えている。テレビ画面で見たものの一番古い記憶だ。何がどこで起こっているかはわからなかった

ただ暗視スコープでみたような緑がかった色味で白く光ったものが飛び交っていた。中学校までは山を下って30分ほど自転車でかかった。いろいろな道順で通学した。毎日街が変化していくのを観察することはその頃から今でも変わっていない。田んぼを照らし川を照らした夕日が山に沈んでいくのを毎日みた。

 

大学には初め建築学科に入学した。高校で理系コースにいたので、何かクリエイティブなことがしたいと漠然と考えた時に大学案内で気に入ったのが神戸の大学だった。建築で重視される周辺の環境などを勉強するうちに、今まで無視してきた地元の伝統的な文化や、昔からある村と隣接する数個のニュータウンの関係に興味をもった。しかし、大学で与えられる課題とそれに対する回答は、100分の1や200分の1のスケールで現実味がなく机上の空論のように思えた。合計3年大学を休学した。姉が自殺したことが大きな理由だ、彼女は都会では毎日のようにある電車の遅延を田舎で起こした。私は体調を崩し実家で療養することになった。体調の良い日はよく散歩した、すぐ近くの山に愛犬と行ったり旧市街を調査するように散策した。冬が溶けて春になっていく様子は毎日が発見の連続だった。苔を見つめたりお気に入りの木を見つめたり、小さい頃よく「自分で調べなさい」とよく母に言われたのが、ネット時代となって検索が簡単になった現代、ノンジャンルで興味があることを調べた。

 

旧市街には画材屋さんがある、何度も通り過ぎたがなんとなく入ってみた。絵を描くのは好きではなかったが、店主と話しているうちに透明水彩を初めて見ることにした。何という形のない物をよく描いた、色と集中する時間が心地よかった。東日本大震災が起こったのはそんな時だった。ニュースを見て感じた事を初めて色に変換していった。それから様々な素材で色を味わい制作した、絵画、染色、陶芸、金属、、、など気持ちが動けばなんでもやってみた。

 

大学に戻って1年後、美術学科に転科した。地元との距離ができたことで、より感心が強くなった。復学して1年後、美術学科に転科した。興味は地元と同じような日本の郊外、ニュータウン、田舎と呼ばれる地域に広がっていった。文化や風習、社会問題などをリサーチする中で害獣というキーワードに引っかかった。夜、山間を車で走っていると、こちらを見ている鹿、散歩している時に聞いた鳴き声や足跡の鹿が、全国的に増えていて問題になっているということを知った。殺して量を減らそうと様々な自治体が動いていることを知った。「人間は野生動物を増えたら減らして、減ったら増やすのか」、「飼育して管理しよう」、「猟師を増やして数を減らそう」、「電気柵って効くの?」議論はネット、書籍でたくさん見ることが出来た。人間と野生動物は共存関係になく、人工物が山を覆い被す。実家があるニュータウン、神戸の急峻な町並みは元々彼らのものだったのだろう。この関係に対しての思いは言葉や文章でてくる。文字を画面に書き込んだ作品が「Draining blood」や、「Age of food shortage」だ(共に2016作)。文字、抽象、文字、図とレイヤーを重ねることが問題の奥深さを表現している。油絵の具で描く理由は、乾燥時間と質感だ。乾かない間は、眺めて、忘れて、新しい発見があってと筆を入れない時間の生活も作品に昇華することが出来る。アクリル絵の具ほど色々な質感を一つの画面に表すことは出来ないが、時間をかけた独特の質感は私のテーマに必要だと感じている。油彩での制作の感覚は染色、陶芸、木彫、ミクストメディアな立体、等でも生かされている。

 

大学を卒業し三重県伊賀市旧島ヶ原村と言う過疎集落のはずれにアトリエを借りている。自然と人間の問題は、世界中万国共通でこの時代に起こっている。この状況を見つめ表現していくことは、関心を持つ機会のない人々に予想外な出会いを与えることが出来る。より良く生きようとする人々に、より多く生きてもらうために制作活動を続けていこうと思う。

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