"Constellation~想起されつづけるもの~"
イトウナホ
2022年4月12日〜5月1日
ある時から、密室で捧げられるようになった祈りは、人を自然であることから遠ざけてゆき、 次第に幾重もの意識の層をまとった一個の個人にしていった。それは、得も知れぬ大きな流 れの中で、ある地点では必要なことだったのかもしれない。やがて自己自身との関係を深め ていった個人の中に生じた亀裂は、柔らかくその裂け目を広げ始め、彷徨いながらも彼、彼 女を、ある一つの物語へと導いてゆくだろう。その時、彼、彼女が頼りにしたのは、自らの 心臓の鼓動と、同時に響いていた隣人の鼓動、幾多の生き物たちの蠢きと、木々のざわめき、 風の声と水の肌触り、揺らめく陽の光。それらの中であなたは、日常のあらゆるささやかな 営み、幾つかの偶然であった出会いを思い起こし、やがてそれらにある繋がりを持った意味 を見出してゆく。それは、「私」というものが世界に含まれていることを理解することかも しれない。
“Constellation”とは、「星座」を意味する言葉だが、空のあまたの星々が喚起させる物語のよ うに、偶然であった様々な小さな点の様なものや出来事が、時空を越えて繋がり、彼、彼女 にとってのある固有の物語を見出してゆくその営為を表すキーワードです。この言葉は、 C.G.ユングが臨床心理学において、人が、あるがままの状態や自らの運命に対して“Yes”と 言いうるために非常に大切にしたものであり、その後日本へも思慮深くもたらされ、また、 私のもとへも、真摯な可能性として、やわらかな光として、届けられました。そして、この ある固有の意味を見出してゆく営為、“constellate”することは、恰も私の絵画の制作過程そ のものの様にも思われました。そこから生み出されるはずのものは、単なる調和を目指すも のではなく、繊細な緊張を孕みつつ、新たな繋がりを見出し続ける星座のようなものである に違いない。私は、私の描き続ける小さな星座のようなものが、誰かの固有の星座と繋がる ことができると信じて、この展覧会のタイトルでもある言葉を大切に思っています。
イトウナホ
展示作品
2021 Japanese pigments on handmade hemp paper on wooden panel 162 x 521 cm | 2021 Japanese pigments on handmade hemp paper on wooden panel 15.8 x 22.8 cm | 2020 Japanese pigments on handmade hemp paper on wooden panel 60.5 x 91 cm | 2021 Japanese pigments on handmade hemp paper on wooden panel 32 x 82 cm | 2021 Japanese pigments on handmade hemp paper on wooden panel 18 x 18 cm | 2021 Japanese pigments on handmade hemp paper on wooden panel 24.2 × 33.3 cm |
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イトウナホ
色彩という形のないもの、それだけでは意味をなさない形、決して何かの境界ではない祈り に似た線、それらが語り始めるもの、それらが交錯し続けることによって、新たに生まれる 絵画の言葉。しかしそれは、人としての最も原初的なリアルにたどり着くための道程かもし れない。イトウは、より深い絵画言語の追求を可能にする素材として、美術大学で日本画を 学び、岩絵具、麻紙、膠、箔、墨などの、自然からの恩恵であり、伝統的と言われる画材に 親しんできた。また、それらの生きた繊細な性質に耳を澄ませることによって、時に気づき をもたらされ、時に裏切られ、再び光を見出しながら、彼女の探求を続けている。